Wi-Fi 7対応ルーターの製品ページには「6GHz帯320MHz幅通信に対応」と書いてある。数字が大きいので速そうだとは分かるが、マンションやアパートで、隣の部屋にも同じような新しいルーターが増えていったらどうなるのか。日本の電波法上、この320MHz幅のチャネルは、国内のどこであっても実質1本しか確保されていない。 しかも2026年に進んでいる制度改正(屋外での利用解禁)が完了しても、その本数は当面増えない。
「320MHz対応」なのに恩恵が薄いと言われる理由
Wi-Fi 6Eまでの無線LANは、1回の通信に使う周波数の幅(チャネル幅)が最大160MHzだった。Wi-Fi 7(IEEE 802.11be)は、6GHz帯に限ってこれを320MHzまで広げられる。総務省の解説資料では、チャネル幅の欄が「20/40/80/160MHz幅」から「20/40/80/160/320MHz幅」に変わっている。320MHz幅は6GHz帯だけの新機能だと明記されている。総務省の資料
幅が倍になれば、単純に考えて通信できるデータ量もほぼ倍になる。ここまではメーカーの説明どおりだ。問題は、この320MHz幅の「区画」が日本国内に何個分あるかという話になると、製品ページには出てこないことだ。
6GHz帯という新しい土地は、まだ500MHz分しかない
Wi-Fiの2.4GHz帯・5GHz帯は長年使われてきたが、6GHz帯は比較的新しい。日本では2022年9月2日の制度改正で、5925MHzから6425MHzまでの500MHz幅が無線LAN用に開放された。ケータイWatchの記事
このとき同時に、運用ルールも2種類決まった。屋内限定で使う「LPIモード」と、屋内外どちらでも使える代わりに出力を絞った「VLPモード」だ。この2つでWi-Fi 6Eが国内でも使えるようになった。屋外でも高出力を出せる3つ目の「SPモード」は、2026年9月時点でまだ検討段階にある。3つを並べると、今どこまで進んでいるかが分かる。
| モード | 屋内外 | 出力上限 | 周波数帯 | 2026年9月時点 |
|---|---|---|---|---|
| LPI | 屋内限定 | 最大200mW相当 | 5925〜6425MHz | 運用中 |
| VLP | 屋内外 | 最大25mW相当 | 5925〜6425MHz | 運用中 |
| SP | 屋内外(高出力) | 検討中 | 5925〜6425MHz + 6570〜6870MHz(案) | 省令改正前 |
LPIとVLPは、同じ500MHz幅の中で出力と屋内外の条件だけが違う。SPモードだけが、帯域そのものを広げようとしている点で異なる。
320MHz幅の伝送が認められたのは、その1年後の2023年12月22日だ。ここが誤解しやすい。この省令改正は新しい周波数を追加したのではない。既に開いていた同じ500MHz幅の中で、1回の通信に使える幅の上限を160MHzから320MHzまで広げただけだった。24Wirelessの記事
なぜ320MHzチャネルは1本しか取れないのか
ここからが本題だ。500MHzという数字だけを見ると余裕がありそうに感じる。しかし320MHz幅の区画を2つ並べるには640MHz分の場所が要る。500MHzの土地に640MHz分の区画は並ばない。日本の6GHz帯では、どこであっても320MHzチャネルは1本しか確保できない。
同じ物差し(下の目盛りはMHz)で並べると、日本の帯域は米国の帯域よりはっきり短い。米国は6GHz帯全体(5925〜7125MHz、1200MHz幅)を無線LANに開放している。だから320MHz幅の区画が重ならずに3本並ぶ。日本側の「180MHz(空き)」は、2本目の320MHz区画を置くにはあと140MHz足りない余白にあたる。NETGEARの解説
500MHzという数字に引っ張られて、自分も最初は320MHzが2本くらい取れるのだろうと考えていた。実際には640>500という単純な引き算で説明が付く話だった。「320MHz幅対応」ルーターを2台、近い距離で320MHz幅のまま使おうとしても、日本には重ならない区画が1本しかない。どちらかが折り合いをつけることになる。集合住宅で「対応」の恩恵が薄れると言われるのは、この1本しかない区画を近隣の対応機器と分け合う可能性があるからだ。
屋外利用の解禁は、チャネルを増やす話ではなかった
2026年に入って、この6GHz帯にはもう一つ動きがある。屋外でも高出力で使える「SPモード」を導入する制度改正が、次の日程で進んでいる。総務省の意見募集結果
- 報告書案の了承: 2026年4月17日(情報通信審議会 陸上無線通信委員会 第99回会合)
- パブリックコメント: 2026年4月22日〜5月26日(提出26件)
- 追加する周波数(案): 6570〜6870MHz、300MHz幅を既存の500MHz幅に追加
「屋外でも使えるようになる」というと、帯域そのものが広がって320MHzチャネルも増えそうに聞こえる。ここが自分にとって一番意外だった点だ。
業界が求めた2本目は、今回は見送られた
パブリックコメントを読むと、PicoCELA社が次のように指摘している。「6GHz高域帯が300MHz幅に制限されたが、これではWi-Fi 7の特長である320MHz幅チャネルが同帯域で1つも確保できない」。300MHzは320MHzに届かない。この新しい帯域に320MHzチャネルは0本しか入らない計算だ。
上限をあと35MHz(6870MHz→6905MHz)拡張すれば、2本目の320MHzチャネルが確保できる。この具体的な数値まで挙げて拡張を求めたのが、次の2件の意見だ。
- Amazon・Apple・シスコシステムズ・Hewlett Packard Enterprise・インテル・Meta Platformsの6社連名: 「6570-6905 MHzまで周波数拡張することに強く賛同する」
- Dynamic Spectrum Alliance: 「上限を6905MHzまで拡張することを推奨する」
エヌ・ティ・ティ・ブロードバンドプラットフォーム株式会社も意見を出している。具体的な数値こそ挙げていないが、「320MHz幅を実現するため更なる周波数拡張」を希望する内容だ。総務省の回答は、これらすべてに対して「今後の検討の参考とされるものと考えます」だった。報告書案の該当箇所は修正されていない。同、意見募集結果PDF
2026年9月時点で、この報告はまだ情報通信審議会の答申や省令改正には進んでいない。屋外での利用が解禁されても、それは「使える場所」が増える話だ。「320MHzチャネルの本数」が増える話ではない。この記事が当てはまるのは、上限が6905MHzまで拡張されるという結論が出る前の状況になる。拡張が決まれば、チャネル数の計算も変わる。
製品ページで確認するとよい文字列
「6GHz帯320MHz幅通信に対応」という表記自体は、規格上正しい。国内メーカーのバッファローは、Wi-Fi CERTIFIED 7を取得した「WXR18000BE10P」で320MHz幅に対応している。INTERNET Watchの実測では、近距離で下り6.75Gbpsを記録した。ミドルレンジの「WXR9300BE6P」も同じく320MHz幅通信に対応する。バッファローの製品発表
ただしこの数値は、近くに競合する機器がない条件での実測だ。自宅の近くに同じ帯域を使う機器がどれだけあるかまでは、製品ページのどこにも書かれていない。買う前に見ておくとよいのは次の2点だ。
- 「6GHz帯320MHz幅通信に対応」の表記があるか。無ければそもそもこの記事の話は関係ない
- 「対応周波数帯: 5925-6425MHz」のような記載があるか。あればWi-Fi 6Eと同じ500MHz幅の中の話だと分かる
まとめ
- Wi-Fi 7の「320MHz幅対応」という表記は規格上正確だが、日本国内で実際に確保されている320MHzチャネルは、500MHzという既存の帯域の中の1本だけだ
- 500MHzに320MHz幅の区画を2つ並べるには640MHz要るため、単純な引き算でこの本数になる
- 2026年に進む屋外利用の解禁(SPモード)でも、追加される帯域は300MHzしかなく、業界大手が求めた2本目の実現は見送られたままになっている
- 「320MHz対応」という言葉だけで速度を判断せず、集合住宅など近隣に同種の機器が多い環境では、この1本を分け合う可能性があると踏まえておくとよい
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