角を曲がった直後に、自分より先に相手に撃たれて負ける。対戦シューターでこの経験をしたことがある人は多いはずだ。原因を「ping(自分の環境とサーバーの間で通信にかかる時間)が高かったから」で片付けたくなるが、低ping側が有利になるという結果は共通していても、その有利をどこまで許容し、どこで補正するかは対戦タイトルによって設計が違う。 VALORANTとApex Legendsの公式技術ブログを読み比べると、同じ問題に別の答えを出していることが分かる。
先に見つけたほうが得をする理由
対戦シューターのサーバーは、全員の操作を1台のサーバーで受け取り、結果を計算してから各プレイヤーの画面に送り返す。この「受け取ってから送り返すまで」の間に、複数の遅延が積み重なる。サーバーは、この遅延を織り込んで「誰が誰をいつ撃ったか」を判定しており、この判定の仕組み全体を遅延補償(ラグコンペンセーション)と呼ぶ。
Riot Gamesは2020年5月のdevブログで、この現象を「ピーカーズアドバンテージ」と呼び、次の要素の合計として説明している(playvalorant.com)。
- 相手側のクライアントのフレームレートによる遅れ
- 相手側の片道ネットワーク遅延
- サーバーの更新間隔(tick)による遅れ
- 自分側の片道ネットワーク遅延
- 自分の画面表示を滑らかにするための補間遅延
角を曲がって相手を先に見つけた側は、この一連の遅れの分だけ「相手がまだこちらに気づいていない」状態で発砲できる。これがピーカーズアドバンテージで、遅延補償が低ping側を有利にする場面の一つだ。VALORANTの場合、この合計は平均40〜70ミリ秒になるとRiotは説明している(playvalorant.com)。数字だけ見ると一瞬に思えるが、反応速度の限界に近い対戦シューターでは、この差が生死を分ける。
この図は、Riotが公式ブログで説明している5つの要素を、影響が積み重なる順に並べたものだ(playvalorant.com)。数値そのものは2020年のクローズドベータ時点のもので、現在も同じ平均値かは確認できていない。
VALORANTは遅れの量を削る方向で解いた
VALORANTはサーバーを128 tick、つまり1秒間に128回、7.8125ミリ秒ごとに状態を更新する頻度で運用している。さらに、キャラクターの動きを滑らかに見せるための補間遅延も同じ7.8125ミリ秒に抑えている(Riot Games)。
先ほどの計算式のうち、「サーバーの更新間隔」と「自分の補間遅延」はどちらも、この2つの値そのものだ。Riotはこの値を小さくすることで、ピーカーズアドバンテージの合計を削っている。Riotは技術ブログで「ピーカーズアドバンテージが小さいほど、駆け引きの多いゲームになると考えている」という設計方針を述べており(playvalorant.com)、低ping側が有利になること自体は前提として受け入れつつ、その有利の絶対量を小さくする方向でチューニングしていることが分かる。
Apexは「常に低ping有利」にしない設計を選んだ
Apex Legendsは、これとは違う場所に手を入れている。開発元Respawnはリード・ネットワークエンジニアの Samy Duc 名義で公開した2021年4月の開発者ブログで、「一部のゲームは常に低ping側を有利にするが、我々のシステムは能動的にそうしない設計を選んだ」という趣旨の説明をしている(EA)。低ping側を一律に有利にしないことで、通信環境が不安定な地域や田舎のプレイヤーでも比較的まともに対戦できることを利点として挙げている。
ただし、この説明は「低ping有利が消える」という意味ではない。同じブログの中でRespawnは、両者がほぼ同時に発砲した場合は低ping側の入力が先にサーバーへ届くため低ping側が有利になること、角を曲がって相手を発見する場面では低ping側のほうが「過去に戻っている度合い」が小さく先に相手を視認しやすいことも認めている(EA)。つまりApexの設計は、低ping有利を消す仕組みではなく、場面によって低ping有利が一律には出ない状態を作る仕組みだと理解したほうが正確だ。
サーバーのtickについては対照的で、Apexは20Hz、1秒間に20回・50ミリ秒間隔のまま運用している。Respawnは60Hzへの引き上げを見送る理由として「帯域とCPUのコストを3倍にしても、短縮できる遅延は最良のケースで2フレーム分にとどまる」という趣旨の説明をしている(EA)。VALORANTがtickの値そのものを遅延削減の主要な手段にしているのに対し、Apexはtickへの投資対効果を低く見積もり、別の仕組みで公平性の問題に対処している。
| タイトル | 低pingの扱い | 具体的な仕組み | サーバーtick | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| VALORANT | 低ping有利を前提に、有利の量を削る | tickと補間遅延をどちらも7.8125msに抑える | 128 tick(7.8125ms間隔) | Riot Games |
| Apex Legends | 低ping有利を一律にしない | 同時発砲・索敵など一部の場面以外では低ping側を有利にしない補正 | 20Hz(50ms間隔) | EA |
表からも分かるように、両社は同じ「低ping有利」という結果に対して、削る量を変えるか、有利が出る条件を変えるかという、別の階層で手を入れている。tickの数値だけを見てVALORANTのほうが公平だと判断するのは早計で、Apexはtickではなく判定ロジックのほうに公平性の調整を寄せている。
読み比べていて意外だったのは、Apexが「tickを上げない」判断をコスト対効果の話として明言していたことだ。てっきりインフラの制約で上げられないだけだと思っていたが、Respawnは2フレーム分の短縮のためにコストを3倍にする価値がないと判断していると説明しており、tickを上げない理由が技術的な限界ではなく設計上の優先順位の話だと分かった。
大会など通信環境がそろった対戦を優先するなら、有利不利の起点をping差だけにできるだけ絞るVALORANT型のほうが、条件がそろっているという納得感を得やすいと思う。一方でカジュアル層や通信環境がばらつく地域を含めて遊ばせたいなら、Apexのように低ping有利が常には出ない設計のほうが参加のハードルを下げられる。どちらが正しいというより、大会シーンの納得感と参加者の裾野のどちらを優先するかという選択に近い。
この説明が当てはまらないところ
- VALORANTの「平均40〜70ミリ秒」というピーカーズアドバンテージの数値は2020年のクローズドベータ時点のdevブログによるもので、2026年9月時点でも同じ平均値かはRiotによる再確認の一次資料を確認できていない
- Apex Legendsのサーバーtickが2026年9月時点でも20Hzのままかは、コミュニティ側の言及はあるものの、Respawnによる現行シーズンの一次資料では確認できていない
- RiotとEAの該当記事は、全文を直接開いて確認する手段が今回なく、検索結果に表示された抜粋・要約をもとに、複数の言及で一致する内容だけを採用している
- 両タイトルの設計の違いが実際の対戦結果(勝率など)にどれだけ影響するかを測定した独立の検証データは確認できておらず、ここでは公式が説明する設計方針の違いとして扱っている
まとめ
角を曲がった直後に撃たれる現象は、対戦シューターの構造上どのタイトルにも起こりうる。ただし「低ping側が有利」という結果を、VALORANTはtickと補間遅延を絞ることで有利の量を削り、Apex Legendsは低ping有利が一律には出ない判定ロジックを組むことで対処している。撃ち合いの結果に納得できないときは、pingの有無だけでなく、そのタイトルが遅延補償のどこに手を入れているかを公式のブログや解説で確認すると、起きていることの理解に近づける。
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